プロローグ1 ハジマリノウタ 新任務








 後に伝説の戦いといわれる長く続いていたハンターとモンスター間の戦いにピリオドを打つこととなった戦いの半年後     


 モンスターのトップのランクTのデスドラゴを苦闘の末、どうにか勝つことができた少年――姫城ケイとパートナーを組んでいた彩華奈々は、ハンター協会本部のロビーでかれこれ小1時間ほど待たされている。

 もともと長かったのにさらに半年間のばしたおかげで、すっかり長くなった鮮やかな金髪をクルクルと弄りながら嘆息する。
 
 いつもは、後ろ髪を半分くらい取り、ポニーテール程ではなく、まとめる程度に結んでいる。
 が、ついさっきここに来るまでにリボンが切れてしまった。引っ張ってきれたとかではなく、何の前触れもなく自然に切れてしまった。

 それからというものいい事がない。
 
 学校に行く途中にここに呼び出され、しかも今日は学校でテストがあり昨日の徹夜を無駄にし、いまどき時代遅れのナンパには絡まれるし、四方八方から多種多様のボールが飛んでくるなどだ。

 そして今現在も、待ちぼうけを食らっている。
  
 これは誰かの陰謀ではないか、と考えてしまうほどだ。

 いつもなら今頃は、学校も終わりケイとデートしているのになぁ、ともう何回目になるか分からない嘆息をする。

 もっとも、これは奈々が一方的にデートと思っているだけであって、ケイは普通の散歩としか思っていないのが悲しいところだが…

 呼び出しておいて1時間も待たす理不尽な召集、無視して帰ってやろうかと思ったが、さすがにハンターのトップに位置する元帥直々の呼び出しなので蹴るわけにもいかない。
 
 そうこうしているうちに奥から見知った顔の人物が見えてくるのが見えた。

 ――彩華達樹――

 奈々の祖父であり、現在5人いる元帥のうちの一人だ。

 「お爺ちゃん何の用?」

 あからさまに、不機嫌な顔をしながら奈々が聞く。

 その眼には、どうでもいい用事だったら承知しないぞ、という怒気が含まれている。

 遠くで、奈々を見て口元が緩んでいた男性職員がひぃっ、と逃げ出す程の形相だ。

 「そう怒るでない」

 奈々に少しもひるむことなく達樹が続ける。

 「最近どうじゃ?」

 「……帰っていい?」

 こんなことを言うだけのためにわざわざ呼び出したの、と言わんばかりに返事を聞かずに奈々が出口に向かってすたすたと歩いて行く。
  
 「違う違う奈々のことではなくケイのことじゃ」

 「ケイのこと?」

 最近のケイと言えば、半年前の戦いでの魔力を無理に使ったせいで魔力回路がボロボロになったのを治療するために2日に1回病院通いしているのと、ほぼ毎日学校に行っていることぐらいだ。

 ほぼ毎日、というのは、この世界の学校では出された課題さえやっていれば単位をもらえる方式になっているので、たいていの生徒は課題だけをして、各々に修業をしている。

 名家の門下生になる者もいれば、有名な人物の弟子になる者や、独学でする者もいる。

 逆に、毎日学校に行き、ちゃんと授業を受ける者もいる。

 もっとも、ハンターになるための学校なのでケイや奈々はハンターの資格を持ち、なおかつ活躍もしているので行く義務はないのだが。

 他にも、学生でありながらハンターになっているものもたくさんいる。

 「どうじゃ?ケイの調子は?」

 「う〜ん いつもと変わんないかな 敢えて言うなら、新魔法を開発してたよ」

 「新魔法?」

 「魔力を少ししか使わずに、密度の高い魔力球を作り出し、なお且つ制御力を磨き自由に動かせるようにしたの」

 「ただの制度のいい魔力球じゃないか?」

 「ところがどっこい、防御力、反発力が高いからたいていの攻撃ははじき返すし、引力も付けられているから物をとってこさせることも可能」

 「ほう、なかなかじゃのぉ」

 「ま、今のケイじゃ2個作るのが限界みたいだけど」

 「それほどの力があれば、安心じゃの」

 達樹は本当に安心したかのように頬を緩ませ、一拍置いて真剣な仕事をする者の顔になり

 「お主ら2人に任務を言い渡す」




 
 

 

 「お腹すいた」

 他の学生が各々に昼食を食べに行ったお昼時、姫城ケイは机に突っ伏してさっきから呪文のように同じことを呟いている。

 80人クラスと言っても机は40個しかなく、テストだった今日も30人ぐらいしか来ていない教室がやけに広く感じる。

 それもそのはず、今日はテストということでいつもより10人程多く来ていたが、当然その10人はテスト終了後速攻で帰宅、午後の授業は、実践演習なのでさらに半分ほど帰宅、よって教室には10ほどしか残っていない。

 実践演習なんて戦いで役に立ちそうだが何故実践演習で帰る人が多いのか、それは内容のせいだ。実践演習は自由参加のトーナメント制で行われ、勝利条件は相手が降伏もしくは戦えない状態にしたら勝ち。そして唯一のルールが相手を殺さないこと。

 そんな野蛮なものに出るのは、よほどの戦闘好きかバカだ。たいていの人は家に帰るなりして各自で修業する。

 それでも、全校生徒で毎回10人前後の挑戦者がいるから驚きだ。

 ケイはそれに出るために残っているわけではない。大体、ケイはハンターの資格を持っているためでることはできない。

 今日はこの後昼食を食べて帰るつもりだ。

 だが、弁当がない。当然ない物は食べることができず、こうして空腹で突っ伏している訳だ。

 帰って食べればいいと、思われるがもう帰る元気もない。

 「何で弁当忘れたんだ?」

 ケイの親友でもある水橋裕斗が声をかけてくる。

 「亜津お母さんが朝から暴走して由姫お母さんがそれに便乗して…」

 何故ケイには2人も母親がいるのか、別にややこしい家族関係があるわけでもない。

 それはこの世界の法律が関係している。一夫多妻制。

 男性よりはるかに女性の人口が多いこの世界において、一夫一妻だと少子化どころの問題じゃ済まなくなる。

 因みにケイには、あと2人母親がいる。

 「ああ、その光景が浮かぶからもういいや」

 ケイの家族を知っている裕斗はそれだけでケイの言いたいことが分かったのか、同情の眼を向けてくる。が、少しするとその顔はにやけて行き

 「由姫さんの胸ってでかいよなぁ」

 と、いきなりセクハラ発言をする。しかも人のの母親で

 「人の母親で興奮しないでよ変態、消えろ」

 「ひどっ、俺達親友だろ!?」

 「設定上ね」

 「設定とか言うな!」

 「ねぇ、弁当分けてよ」

 「スルーですか」

 「ねぇ、弁当分けろ」

 「命令!?って言うかやだよ。お前に分けると全部食われるから」

 「ちっ」

 「態度悪いな!おい」

 ケイはまた机に突っ伏し戻す。

 「ケイくん少し分けてあげようか?」

 隣で2人のやり取りを見ていて声をかけてきたのは、鷹武弥生。

 ケイとは、昔からの付き合いで幼馴染と言ってもいいほどだ。

 「いいよ、悪いから」

 「俺と扱い違わない!?」

 「弥生、何してるの?」

 弥生の手には、携帯ゲーム機が握られている。

 この世界は、文明が発達していないわけではないが、携帯ゲーム機はない。

 だから、弥生が手にしているものは当然異世界からの輸入だ。

 弥生は器用にも、片手でゲームをし、もう片方で弁当を食べている。

 「今日は、敵を吸い込み飲み込んで自分の力とするRPG」

 今日は、という発言からもわかるが、彼女は相当のゲーム好きである。むしろ、ゲーム廃人と言ってもいいくらいだ。

 前に、地球という世界のオタク文化は素晴らしいと言っていたのをケイは覚えている。

 弥生の可憐な容姿と存在感のある胸にあこがれた男子が、弥生のゲーム廃人ぶりを見て何人廃人になったことか。

 「おう、項垂れているな姫城!」

 ケイの目の前に大男が現れる。体中が筋肉でムキムキで毎日ベンチプレスでも持ち上げているに違いない。とても、ケイと同じ16歳とは思えない。

 ケイはこの男に見覚えはある。確か同じクラスだ。

 「えっと、えぇーっと……………………誰?」

 「さんざん悩んだ挙句がそれか!くっ、まあいい聞いて驚け!」

 「わぁ、びっくりした じゃ」

 「まだ何も言ってねぇ!って手を振るな手を!」

 「さっきからエクスクラメーションマークが多くてうっとおしいよ」

 「くっ、この野郎!」

 「まぁまぁ落ち着いて」

 ゲームをちゃんとセーブし終わってから弥生が2人の仲裁に入る。因みに、裕斗は我関せずと弁当を食べている。

 「ケイくんと…………………#$%&くん喧嘩はよくないよ」

 「思い出せなかったからって適当に言ってごまかすな!」

 「なるほど、#$%&って名前なのか」

 「そこ!納得するな!」

 「#$%&くんはケイくんに何の用なの?」

 「そうそれだ!副会長になったんだ!」

 「弥生、昨日亜津お母さんがさ」

 「流すな!」

 「副会長がどうしたのさ」

 「実践演習で優勝してそれを会長に認めてもらたんだぞ!」

 これにケイは驚いた。実践演習になんて出場するバカが近くにいたことに。

 その後も、男はいろいろと話していたがケイは無視して弥生と裕斗と雑談に入る。

 「じゃふゃぁー」

 突如、窓から何かが飛び込んできた。

 それはそのまま、今だ副会長がどうたらこうたらいっている男に突進して跳ね飛ばした。

 男を跳ね飛ばしたのは、きれいな銀色の毛をもつ狼だ。

 「あれ?狼華どうしたの?」

 「おふぇんとひょう」

 青い布で包まれた箱を口にくわえているので何を言っているのか分からない。

 狼華と呼ばれている狼は、包みを近くの机に置き、ケイに飛びついて胸板に顔をすりすりとこすりつける。

 「由姫さんがケイさんにお弁当とどけてだって」

 狼華が褒めて褒めてと言わんばかの表情でケイを見上げながら言う。

 普通は狼が喋っていたら驚きそうだが、そこにいる誰も驚きはしない。

 それがこの世界の住民にとって、常識だからだ。

 彼女、銀狼の狼華はケイの使い魔だ。

 使い魔とは、魔法使いや魔女が使役する絶対的な主従関係で成り立つ魔物、精霊、動物などのこと、という定義になっているが、この世界の人は、主従関係にあるにしてもそんなことはほとんど考えずに、ただ1人の者として考えている。

 それに、精霊はこの定義から外されて考えられており、むしろ崇める対象とされている。

 「あふぃがふひょう」

 いつの間にかケイは、弁当を開けものすごい勢いで弁当を食べ始める。

 「ごちそうさまでした」

 「はやっ」

 ものの30秒で食べ終えたケイは、ついてある紅茶を飲みながら休憩している。

 「あっ、ところで狼華」

 「何?」

 「いや、ちょっと待てお前ら」

 普通に会話をし始めた二人に、裕斗が止めに入る。

 「あそこで転がっているやつどうにかしてやれよ」

 裕斗が指す先には、狼華が吹っ飛ばした男がドアの前あたりで転がっている。

 「弥生ガンバ」

 「えぇ!?何で私!?」

 隣でまた違うゲームをし始めた弥生に話を振る。

 急に振られた弥生は驚いて、ゲーム機を落としそうになる。

 「だって、弥生だしねぇ」

 「鷹武姉だからなぁ」

 ケイと裕斗が口々にそう言いながら、目をそらす。

 「私の扱いひどくない!?それとケイくんに言われるならまだしも、水橋くんには死んでもいわれたくない」

 「てめぇ、俺とケイとの扱い違いすぎるだろ、っていうかそろそろゲーム機放せ」

 「愛しているケイくんとその他のカスの扱いが違うのは当り前よ」

 瞬間、周りが静まりかえる。

 誰もこのようなことは予想だにしなかっただろう。

 授業中、妄想していて内容が駄々漏れでケイのことを好きなのは皆知っていたが、まさか勢いだけで告白するとは思っていなかった。しかも、ゲーム片手に。

 そして、クラス中の目が相手のケイに向けられる。

 ケイはというと、何食わぬ顔で狼華と話をしている。

 その瞬間教室で言葉が飛び交う(10人程しかいないが)。

 「まさか2人はもう付き合っていたのか?」「そうだよな。好きじゃなくて、愛してるだもんな」「くっ、私が姫城くんを弟にしたかったのに」「なるほど、姫城の好みは平均を下回る胸か」「妹の方を取られるより、姉を取られた方が俺はうれしい」「じゃあ、姉の方はどうでもいいか」「ああ、どうでもいい」「右に同じ」

 クラスの総意が、弥生はどうなってもいい、と出たところで弥生の方はというと。

 「こ、告白しちゃった。もしかしたら、このままいくところまで行って、恋人になってすぐにベットで ピー を ピー して私が ピー したり…(以下略)」

 裕斗はこんなことになってしまったことに少し罪悪感を感じるので、弥生の18禁の言葉にピーを入れている。

 「姉さん、よだれを垂らしながら妄想しないで下さい。見るに堪えません」

 妄想中の弥生を止めたのは、隣のクラスの弥生の妹だった。

 鷹武瑠姫

 母親が違うので、弥生とは5ヵ月違いの姉妹だ。

 瑠姫は生徒会長をやっておりその上、才色兼備なので学生からは高嶺の花と呼ばれている。

 一方、姉の弥生の方は堕落していることから低嶺の花(顔はいいがその他に難ありの意)と呼ばれている。

 瑠姫はニヤッと笑みをこぼしながら、弥生の机の上にあるものを落とした。

 「耳栓?」

 「姉さんに告白はさせない」

 「はっ、もしかしてこれでケイくんの耳を聞こえなくしたの?」

 瑠姫は静かに頷く。

 「そ、そんな」

 弥生が崩れ落ちて行く。

 「そんなに落ち込まないでください姉さん」

 告白を無効にした張本人の瑠姫が弥生を慰める。

 「姉さんは勢いとノリで場面も考えずにうっかり告白する最低な人間ですから」

 「とどめ刺されたぁ!」
 
 「ところで、ケーくんお願いがあるのですけど」

 「スルー!?しかも何?その恥ずかしそうに頬を赤く染めながら俯いている感じ」

 各クラスから騒ぎを聞きつけた学生が一斉に1つのことを思った。

 (妹の方が告白をするかもしれない)

 「み、皆の者急いで告白を止めろ」

 「「「おおおーー」」」

 その場にいる学生の大半が2人の会話を止めようとする。

 「って、私の時と反応違いすぎない!?」

 「「「お前は生贄にされていればよかったんだ!!」」」

 「生贄って何!?」

 「全軍突入ー!!」

 「やっぱりスルーなの!?」

 騒ぎの原因であるケイと瑠姫は会話を始める。

 「ねぇケーくん」

 「うん」

 「くっ、間に合わん。ここまでか」

 皆が注目するなか、瑠姫は続きの言葉を口にする。



 「副会長にならない?」

 
 
 「「「……はぁ?」」」」

 パリンッガシャーン

 予想外のことに、勢いを止められなかった生徒が窓を突き破り落ちて行く。4階から

 「まぁ、こうなることは分かっていたけどね」

 「窓ガラスに頭を突っ込みながら言っても説得力ないよ水橋くん」

 「ハハハ、ナンノコトダロウ」

 「それに、突撃ーとか言ってたの水橋くんだよね」

 「さ、さぁ?って押さないで落ちる落ちる」

 「大丈夫もう何人も落ちているから」

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」

 「悪は滅された」

 教室には、ケイと瑠姫と弥生と狼華の3人と1匹しかいない。いや、もう1人いた。さっきの暴動に参加できずにドアの付近で寝たままの男が一人。しかも、人の出入りが激しかったので足跡がいっぱいついている。

 「やだよ、副会長なんて面倒だし」

 「お願いケーくん」

 瑠姫はケイと話すときだけ少し砕けた口調になる。本当に微々たるものだが。

 「副会長って決まったのじゃなかったの」

 「決まったのは決まったけどあれはダメですね。要領も悪いですし、力だけで選んだのが間違えでした」

 「今、副会長と思われる人が泣きながら走って行ったよ」

 さっきまで寝ていた男が本気で泣きながら廊下に出て行った。かわいそうに、と思う人は誰もいなかったが。

 「本当にマイペースよね2人とも」

 「長風呂の姉さんに言われたくありません」

 「女の子なら普通だと思うけど」

 「たまに喘ぎ声が聞こえてくるのは何なのでしょうか?」

 「誤解されるようなことを言わないで!」

 「喘ぎ声?」

 「ケイくんもそこに食いつかないで」

 「そんなに貪ってほいいのですか姉さん」

 弥生は諦めたのかもう、っと言いながら、ゲームを始める。

 そんな3人を見ながら狼華は全員マイペースだと思った。

 
 「ケイー 新しい任務が入ったわよ」

 元気よく奈々が教室に入ってくる。

 「私がせっかく締めたのに何で入ってくるの?デカチチ女」

 「えっ?入ってきていきなり罵倒!?」

 「「デカチチだから」」

 狼華と弥生が声をそろえて言う。
 
 「わ、私は標準的なサイズよ。そっちの方がでかいじゃないの」

 奈々が反論とばかりに瑠姫の方を指しながら言う。

 確かに胸のサイズで言えば瑠姫が一番大きいだろう。

 「私のはケーくんが揉みやすいサイズですから」

 「ふふふっ、お返しよ瑠姫」

 冗談と分かり切っているセリフだが、弥生がケイの耳をふさいでいる。

 「姉さん消えてください」

 「いきなり死刑宣告!?」

 「大丈夫です。じっくり痛みつけますから」

 「こういう時って普通一発で殺すとか言わない!?」

 「そんなの姉さんにはもったいなさすぎです」



 「任務って?」

 鷹武姉妹が横でドンパチやっているのを尻目にケイが奈々に尋ねる。

 「これ」

 内容は全部書かれているよ、と付け加えてケイに封筒を渡す。

 「ふむふむ」

 「どう?」

 「狐月に聞いてみないと何とも言えないよ」

 「見してもらっていい?」

 どうぞ、とケイが言ったのを確認してから瑠姫が封筒を手に取る。

 その間、誰も奥の方で縛られている弥生の方は見ないようにしている。

 「今のケーくんだったらギリギリですね」

 「やっぱり?狐月呼んでみよっか」

 狐月とは、ケイと使い魔契約しているもう一匹の使い魔だ。

 奈々は今までのケイだったら迷わずに了承していただろうが、今は自分のことや周りのことを考えているところをみると半年前に比べたらだいぶ成長したなぁ、と心の中で感心する。

 「ふーふー」

 「何やっているの?」

 奈々が感慨にふけっている間にケイが何かをし始めた。

 ケイは親指と人差し指で輪を作り、それをくわえて、必死に吹いている。

 笛を吹こうとしている、と奈々が気づくのにはそう時間は要らなかった。

 「もしかして、それで狐月さんを呼び出すき?」

 「うん」

 「いやいや、来るわけないから」

 と、奈々が呆れたような口調で言う。

 「呼びました?」

 落ち着いていてなおかつ凛とした声でそんなことを言いながら、紫の毛色をしたキツネが窓からひょいっ、と入ってくる。

 「「「本当に呼び出せた」」」

 奈々と狼華といつの間にか縄から抜け出した弥生が同時のタイミングで突っ込む。

 3人の息の合った突っ込みに狐月は少し引きながらも丁寧に対応する。

 「元々、狼華と一緒に途中まで来ていましたので」

 「でも、何でバラバラ?」

 「途中で狼華がお弁当箱をくわえたまま、あほのように走り出しましたので」

 「さりげなく罵倒されなかった!?」

 「後、タイミングよく出てきたのは少し狙っていたからです」

 「へぇ〜」

 「では、ケイ様任務内容をお見せください」

 ケイは狐月が見えやすいように、狐月の目線のあたりで紙を広げる。

 狐月はケイに礼を言うと、紙を読んでいく。

 「ケイ様が無理をしないと約束してくださるのでしたらOKですよ」

 「分かった。気をつける」

 ケイは約束するとは言わない。

 「それよりケイ様、集合時間まで30分もありませんよ」

 「って、ホントだ。ミッドチルダまで30分か。ギリギリだね」

 「………」

 「急げー」

 ケイ、奈々、狼華、狐月の2人と2匹がものすごい速さで駆けて行く。

 「あはは、いってらっしゃい」

 「姉さんここで悲しいお知らせです」

 「何?」

 「私たちの出番はこれで終了です」

 「そんなぁーーー」

 学校からは弥生の叫び声が響いていた。









前話へ NOVELS 次話へ